以下の文章は、北岡泰典のメルマガ「旧編 新・これが本物の NLP だ!」第 58 号 (2006.9.26 刊) からの抜粋引用です。

* * * * * * *

今回は、先週終わった大阪第四期プラクティショナー コースの第五モジュールを中心に徒然に筆を取ります。末尾 (「4. 日本一になることの意味合い」および「5. 日本人は深層構造を計るのが上手いのか下手なのか?」) では、私の現在の日本に関する文化論的考察を書かせていただきました。


1. 大阪第四期プラクティショナー コースの第五モジュール開講される

日本 NLP 学院主催の大阪第四期プラクティショナー コースの第五モジュールが先週末大阪で開講されました。このモジュールは、私とアラスタ プレンティスさんの共同講義のモジュールで、「ニューコード ゲーム」、「(空間ソーティングを使った NLP ユニバーシティ バージョンの) 6 ステップ リフレーミング」、「ヒーローズ ジャーニー」、「ドリーム インキュベーション (夢を養う演習)」、「心身センタリングとアーケタイプのリソース演習」を初めとする、深層心理の無意識を扱ったワークを中心に紹介、演習実践されました。

私もアラスタさんも今年の夏にイタリアでのスティーブ ギリガンの催眠ワークに接していることもあり、私自身、以前のコースと比べてもさらにかなり深いレベルの夢とアーケタイプに関連した変性意識の観点から見た説明ができたようにも思いました。

学院の初期のプラクティショナー コースでは「個人編集テクニック」を中心とした「旧コード NLP」がベースだったので、「催眠」という言葉も催眠誘導テクニックもほとんど紹介されずに、これらのエリアのワークはマスター プラクティショナー コースでだけ教えられていましたが、最近のジョン グリンダー氏の「ニューコード NLP」的方向性を受け、催眠をプラクティショナー コースでも明示的に教えるようにしています。

その中で、今回、「6 ステップリフレーミング」の演習後、コース参加者とフィードバック セッションをしているときに、私は非常に興味深い「閃き」をもったので、これについて、本メルマガで紹介したいと思いました。

まず指摘すべきことは、私が最近訳したグリンダー&ディロージャ著の『ニューコードNLPの原点: 個人的な天才になるための必要条件』等では、「世界を止める (すなわち、無意識に充全にアクセスする)」ためには、内的対話を止め、かつ、中心視野のかわりに周辺視野をもつことが必要であることが力説されています。

このことについて、同プラクティショナー コース参加者の一人が「6 ステップ リフレーミング」の演習後のフィードバックとして、「中心視野をもっていると一つの問題に関わりすぎるが、周辺視野を使うと同時にいろいろな可能性が見えて柔軟性が高まります」といった意味のことを発言したときに、私はあることに閃きました。

これは、以下のような、「6 ステップリフレーミング」の (第4ステップの) 高次の肯定的意図を満たす、問題とは別の新しい代替行動が生み出されるメカニズムについてのグリンダー氏の説明に関連しています。

(引用開始)

「飲酒問題をもっているアルコール中毒症の人、または減量したいと思っている人の例を考えてみましょう。これは、いかなる中毒にも有効に適用できます。通常のケースでは、クライアントの過去を調べると、『一定期間』禁酒することができて、また飲酒を始めたということがわかります。該当の行動の見返り、すなわち二次的恩恵または二次的利益が何であるかを明示的にするとしたら、以下のようなことが判明します。

彼はリラックスするために酒を飲む。
毎日のプレッシャーから逃れるために酒を飲む。
社交状態を達成するために酒を飲む。

リラクゼーションの状態にアクセスすることの肯定的意図に焦点を合わせるとします。この肯定的意図は、クライアントにリラクゼーション状態にアクセスさせる一式の全行動に与えられた名前です。このセットになった行動は、定義上、常に元の行動を含んでいます。

言い換えれば、リラクゼーション状態を達成する一式の方法には、B1 (スポーツ)、B2 (読書)、B3 (瞑想)、Bi (ドラッグ)、Bi+1 (ヨガ)、 Bi+j (アルコール中毒)、Bn (呼吸演習)、(共同体貢献サービス) といった多数の行動があります。該当のセットのメンバーが何であるかを (少なくとも部分的に) 特定した後は、変化ファシリテーションの作業は非常に単純なものになります。つまり、セットから該当の行動 (この場合は、アルコール中毒) に置き換わる 3 つ以上の行動を選ぶだけですみます。」

(引用終了)

つまり、「6 ステップ リフレーミング」ワークでは、通常、たとえば、「アルコール中毒」という症状によってしか「リラクゼーション」という隠れた肯定的意図が達成できない状態が、同じ意図を達成しうるスポーツ、読書、瞑想、ヨガ、呼吸演習といった他の行動選択肢を無意識が受け入れるようになるというメカニズムが機能しています。ここで、私は、ふと、人々が問題となる症状をもつのは、単に問題となっている行動選択肢 (この例では「アルコール中毒」) の観点に固執しているからであって、その観点からチャンクアップして高次の肯定的意図 (「リラクゼーション」) の観点に移りさえすれば、そして、その観点から「中心視野 (意識) で見れば、たった一つの『アルコール中毒』という行動選択肢しか存在しない一方で、周辺視野 (無意識) を使えば、即座に『スポーツ』、『読書』、『瞑想』、『ヨガ』、『呼吸演習』といった他の行動選択肢が同時にほぼ無限の数存在していることに気づくことができる」ことに思い当たりました。

以上の私の「発見」を図式化してみると、以下のようになります。

上の図では、太い傍線矢印は肯定的意図から問題になっている症状を見ている中心視野を意味していて、細い破線矢印は同じ肯定的意図から見た周辺視野を意味していています。この周辺視野は、肯定的意図を満たしうる他の無数の (x 個の) 代替行動を同時に見ることができます。

私は、個人的に、この「6 ステップ リフレーミング」と「中心視野/周辺視野」を組み合わせた考え方は非常におもしろく、有益だと思いました。


2. 我々は毎日朝起きる度に天空から蜘蛛の糸を垂らしながら降りてきて日常生活を送っている

最近私はある方々と会っていて、本メルマガの 第 56 号でも引用されているように (少なくとも 500 億個あると言われている人間の大脳の神経細胞の一つ一つの間の可能性としてのコネクションの数を計算した学者がいて、その学者によると) 「一人の人間における可能な精神状態の数は、2 の 100 兆乗で、この数字は、知られている宇宙に存在する原子の総数以上である」事実 (この引用は『ミルトン H エリクソン全集』の編者のアーネスト L ロシの著『The Psychobiology of Mind-Body Healing』からなされています) を指摘して、「このため、人間は毎日夜睡眠して、非常に深い無意識の領域に行き、いわば『無限』の世界と自己同一化した後、翌日朝起きたとき、ありとあらゆるほぼ無限の数の可能性としての精神状態を (消極的に) 否定しながら自分の『日常生活の非常に限定されたアイデンティティ』に (毎朝) 首尾一貫して戻ってきているのは、ほぼ奇跡的な偉業ではないでしょうか?」と言い足したのですが、そのとき、この方々は、以下のようなすばらしい比喩を語ってくれました。

「では、私たち人間は毎日朝起きる度に無限の天空から蜘蛛の糸を垂らしながら下界に降りてきて、この同じことを繰り返す日常生活を送っているのですね。」


3. スティーブ ギリガンのトランス誘導のパターン

今年の夏、私は、イタリアでスティーブ ギリガンの催眠ワークショップに参加しましたが、同氏のクライアントを前にした催眠セッションのトランス誘導のパターンについては、本メルマガの前号では、以下のように書かせていただきました。

「このため、尋ねるべき質問は、催眠をかける人は、どのようにしてクライアントの中に催眠的過程を誘発するか、になります。彼は、その努力を導く一般的原則を使う必要があります。私は、これらの原則の中で次のことが最も重要であると見なします。(1) クライアントの現実を受容し、活用する、(2) クライアントの行動をペーシング & リーディングする、(3) 「抵抗」をペーシングの欠如と解釈する。

最初の受容と活用の原則は、エリクソンによって何度も強調されました。簡単に言うと、「受容」とは、「この時点であなたが行っていることは、まさしく私があなたに行ってほしいと思っていることです。それはいいことです。完璧です」と想定し、クライアントに対してそのようにコミュニケートすることです。「活用」とは、「あなたが今行っていることは、まさしくあなたが X を行うことを可能にさせることです」と想定し、クライアントに対してそのようにコミュニケートすることです。受容と活用の過程は、クライアントが行っていることはいいことで、かつ、何か他のこと (たとえば、トランスの経験) を達成することを可能にさせる、ということをコミュニケートする過程です。」

たとえば、ギリガンの催眠誘導の例は、次のようなものになります。

「今あなたは Y という行動をしています。この時点で、Y はまさに私があなたに行ってほしいと思っていることです。それは非常にいいことです。完璧なことです。そして、Y という行動は X という目的を達成するための一つの方法です。それは、X を可能にしています。今、X という目的を達成するための方法としては、Y は非常にうまく機能していることがあなたにはよくわかります。そして、私も、あなたも、X という目的を達成するために、まだまだ他にも数多くの方法があることもよくわかります。あなたの無意識は、今後日常生活において、X という目的を達成するために、これまでのように Y という行動だけに固執することなく、同じ目的を達成するための他の多くの行動や方法を探索してみて、これらの方法で遊んでみたいと思うことでしょう。」

(これは、同氏の誘導内容の文字通りの引用転記ではありません。)

ここまで読んでくると、読者の方々は、上の項目 1 で示されている、「6 ステップ リフレーミング」と「中心視野/周辺視野」の組み合わに関連した私の「発見」も、項目 2 の「我々は毎日朝起きる度に天空から蜘蛛の糸を垂らしながら降りてきて日常生活を送っている」事実も、項目 3 のギリガンのトランス誘導のパターンも、ベースとして、すべて同じメカニズムが機能していることに気づかれることでしょう。

この普遍的に共通している機能は、人間のいかなる問題の解決にも適用可能であるという療法的意味合いから言っても、極めて興味深いと思います。


4. 日本一になることの意味合い

最近テレビでホンダの創始者、本田宗一郎のことが語られているのを見ましたが、同氏は「世界一でなければ、日本一ではない」をモットーにしていたということですが、この立場は、私の立場を如実に表わしてくれています。私であれば、以下のように言うと思います。

「世界に通用しない『大和魂』など、本物ではない。」

この場合の「世界」とは、人間の普遍的な無意識の領域を意味してもいますが、そのような全世界の万人の考え方の基になっている「深層構造」 (実は、この話題に関しても、項目 1 から 3 までで語ってきている無意識の普遍的パターンが当てはまっていて、この深層構造は「6 ステップ リフレーミング」の「肯定的意図」に対応しています) まで掘り下げて、そこから再度「表層構造」 (同じく、目に見える行動選択肢に対応しています) に戻ってくる形で日本人のアイデンティティを全世界に対して主張していかないかぎり、「井の蛙」のレベルでの主張では、国際舞台では、日本人はまったく相手にされないままでいることでしょう。

最近、2007 年の団塊の世代の大量定年退職問題が話題になっていますが、「全共闘」時代の「言行不一致」等に起因する「負の遺産」が現在残されていて、この世代の人々は、今後余生を過ごす間に、その負の遺産の総括をする必要がある、等と言われているようです。私は、その負の遺産には、バブルの崩壊、いじめの問題、フリーター/ニート問題 (もしかしたら、言行が不一致していた団塊の世代を親としてもった子供または孫たちが、ベイツン的な「ダブルバインド (二重拘束)」の犠牲となり、その逃避法として「ニート」的行き方を余儀なくされていったのではないかという私の見方は、あまりにもうがった見方でしょうか?) 等が含まれていると思いますが、今後、仮に日本の若者がこの負の遺産から回復してさらなる発展を達成できるとしたら、上に示唆したように、国際人として「世界に通用する本物の『大和魂』」を模索していくことしかその道はないと、私は考えています。

もちろん、この「国際人として世界に通用する本物の『大和魂』の模索」には、私が常に主張している 1) 外国語 (英語)、2) インターネット、3) NLP の三大重要ツールが不可欠と考えています。

この三大重要ツールに関して、私の「NLP を使った英語加速学習法」については、現在、大手出版社を通じて私の著書出版のプロジェクトが検討されているところです。


5. 日本人は深層構造を計るのが上手いのか下手なのか?

以上の内容を今号のメルマガ用に書いた後、異文化コミュニケーションの観点から非常に興味深い、上記の話題にも密接に関連したケースが実際に起こったので報告したいと思います。

現在私は、ドイツ人の友人で哲学者の方で、来日を予定している人と電子メール交信しています。この方は来年 3 月のある特定の週に来日を希望していて、私に日程調整と人々と会うためのコーディネートを求めています。

私は、自分のメールで間違えて「2008 年 3 月」という日程で話をしたところ、「日程を 2007 年から 2008 年に変えたのですか? あまりよく理解できません」というメッセージを本日この方からいただきました。

私は、(自分の間違いを棚上げするわけではありませんが)、相手が日本人であれば、1) これまで2008 年の日程はいっさい話をしてきていない、2) 私の (年を間違えて) 提示した週の日付と曜日は 2007 年のものである、といった「間接的状況証拠」から「この人は単に年を間違えているに違いない」と思う可能性が高いかと思いますが、西洋人は、実際に表層構造として表現されていることだけに固執する傾向が著しいようです。この方の反応のパターンと私の 20 年近い英国での生活での他の人々の反応パターンとは首尾一貫しています。

私は、このように、夫婦間でも毎日常に互いに「I love you」と言い続ける必要があり、目に見える表層構造だけに縛られすぎているマインドをもっているからこそ、近代西洋人は、その反省に立ち、意識的に深層構造を求める必要性に駆られて、チョムスキーの変形生成文法やそれを人間コミュニケーションに応用した NLP、さらには、その 1 モデルとしての「6 ステップ リフレーミング」が生まれたのだと、思います。

では、日本人は、逆に、深層構造を計るのが上手いのでしょうか、それとも下手なのでしょうか?

一般的には、日本人は「以心伝心」や「行間を読む」ことに優れていると言われていますが、私は、その (カリブレーションの) 精度は、巷で信じられているほど高くはなく、ただ、コミュニケーションの当事者間で推測に基づいた「読心術」が正しいかどうかを相互に確認することがほとんどないので「日本人の読心術は完璧である」という神話ができあがっているだけだと思います。

非常に皮肉ことは、西洋人は、表層構造しか信じない傾向の反省に立って、深層構造を発見して、その表層構造を「相対化」することに成功した一方で、深層構造を正確に知ることができると信じて疑わない日本人が、その推測の精度の検証を怠ってきたというまさにその理由により、自分が今たまたまもっている表層構造 (私は、ここで日本人が言う「大和魂」等を意味しています) を「絶対化」してきているという事実です。

作成 2023/11/24