以下の文章は、北岡泰典のメルマガ「旧編 新・これが本物の NLP だ!」第 48 号 (2006.2.12 刊) からの抜粋引用です。

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今回は、北岡泰典公式ワークショップ シリーズ、その他の最新情報についてお伝えします。

1. 「北岡泰典公式ワークショップ シリーズ」第八回ワークショップ参加者募集

2005 年 11 月より開講されてきている「北岡泰典公式ワークショップ シリーズ」の第七回ワークショップは、「ワークその 2 『オルタード ステーツ (変性意識) とは?』 レクチャー 2.1 『変性意識を作り出すツール』」というタイトルで、2006 年 2 月 1 日にホテル ヴィラ フォンテーヌ汐留コンファレンス センターで成功裏に開講されました。

このワークショップでは、「変性意識を作り出すツール」として、催眠、瞑想、(滝打ち、断食等を含めた) 求道者の荒行、アイソレーション タンクのような「知覚入力の遮断」、ドラック、(マラソンを始めとする) スポーツ、音楽、セックス、NLP、その他、さまざまな方法があることが考察されました。 その中でも、特に、NLP は、いったん他の方法で獲得した精神状態をいつどこでも瞬時に、さらに 1 日 86,400 秒間容易にアクセスすることを可能にする「変性意識を作り出すためのメタ・ツール」であることが考察、検証されました。

次回の第八回ワークショップは、「ワークその 2 『オルタード ステーツ (変性意識) とは?』 レクチャー 2.2 『トランスパーソナル心理学について』」というタイトルで、2006 年 2 月 1 日にホテル ヴィラ フォンテーヌ汐留コンファレンス センターで開講されます。

このワークショップでは、北岡泰典が NLP 以前で「東洋的精神世界と西洋心理学の架け橋」としてもっとも可能性があると評価している心理学であるトランスパーソナル心理学についての考察がなされます。 特に、3 人の卓越したトランスパーソナル心理学者であるケン ウィルバー、チャールズ タルト、スタニスラフ グロフについての考察がなされます。 NLP 演習としては、「変性意識を作り出すための NLP テクニック」としてサブモダリティを使った演習が予定されています。

ワークショップ詳細は以下のとおりです。

開催日時: 2006 年 3 月 15 日 (水) 18 時~21 時
開催場所: ホテル ヴィラ フォンテーヌ汐留コンファレンス センター
http://www.villa-fontaine.co.jp/shiodome/
トピック: ワークその 1「汝自身を知れ」
ワークその 2 「オルタード ステーツ (変性意識) とは?」
レクチャー 2.2 『トランスパーソナル心理学について』
募集人数: 10 名
参加費: 事前振込み 1 万円、当日支払い 1 万 2 千円

参加申込みサイト: www.kitaokataiten.com/work/top.html

(注意: 参加申込みの混雑が予想されますので、申込みはお早めにされるようお勧めします。)


2. ニュー コード NLP の「ノウイング ナッシング ステート」について

ニュー コード NLP の「ノウイング ナッシング ステート (Knowing Nothing State)」については、本メルマガの過去 3 号でも何度も言及してきている、NLP 共同創始者ジョン グリンダー氏の最近のワークの最重要要素の一つですが、第 45 号では以下のように書かせていただきました。

「この『ノウイング ナッシング ステート』は、ニュー コード NLP ではもっとも重要な要素で、この VAKO のすべての回路を開いてしまった状態は、おそらく、ニュー コード NLP の端緒と言われている『どんどん下に重なっていく亀 – 個人的天才になるための必要条件』 (グリンダー、ディロージャ共著、1987 年出版) [下記の項目 3 を参照のこと] で頻繁に言及されている、カルロス カスタネーダ式の『Stop the World (世界を止める)』状態にも近いものでしょうし、また、場合によっては、ある特定の瞑想状態にも近いと言えるかもしれません。」

この点に関して、「ニュー コード変化フォーマット」等を通してノウイング ナッシング ステートを体験した方々が、「これは無の境地だ。悟りに近い」と言っておられるのを耳にしました。

私は、個人的には、「悟りはそれほど安っぽくない」と考えていて、確かにノウイング ナッシング ステートでは、「ランナーズ ハイ」、「ナチュラル ハイ」に近いステートに入れるとしても、非常に特定の深い瞑想状態、その他限定された方法で、長い規律と訓練の後に得られる人間の「究極的変性意識」である悟りと混同することは、かなり危険であるように思われます。

ノウイング ナッシング ステートは、(もし該当の人が求めるのであれば) 悟りという長い道のりの一助となる、というふうに控えめな見方をしておいた方が無難なように思われます。


3. 『個人的天才になるための必要条件』

『どんどん下に重なっていく亀 – 個人的天才になるための必要条件 (原題: Turtles All the Way Down: Prerequisites to Personal Genius』 (グリンダー、ディロージャ共著、1987 年出版) については、これまでも何度となく言及してきていますが、現在、この本の私の翻訳書が、グリンダー氏の 4 月後半の再来日に合わせて、出版される予定となっています。

この本は、1980 年代後半にグリンダー氏と当時のトレーニング パートナーで NLP 共同開発者のジュディス ディロージャが世界中で行っていたワークショップ シリーズ「個人的天才になるための必要条件」の枠組みで 1986 年にサンフランシスコで行われた 5 日間ワークショップのテープ録音を転記、編集した本で、私も、1988 年春に英国ロンドンで開講された同名のワークショップに参加して「衝撃的」な体験をした覚えがあります。(このワークショップは、私にあまりにも大きな変容をもたらしたので、その年の夏に、サンタクルーズでのお二人の NLP プラクティショナー コース、翌年夏に同じくマスター プラクティショナー コースに参加した次第でした。)

英国ロンドンでのワークショップも、かなり中身の濃いもので、特にグリンダー氏のベイツン的左脳志向の論理的議論は圧巻ものでしたが、『個人的天才になるための必要条件』のコンテンツは、かなり「難解」と言えるかもしれません。1994 年に発行されたこの本の重版の裏表紙には以下のようなプロモーションの文言があります。

「他の文化と学問のユーモアと比喩で豊かな『どんどん下に重なっていく亀』は、NLP 技術の初期体系の基盤となったパターニングの対象である複数の天才に共通する特徴を分析、開発します。

本書は、ジョン グリンダーとジュディス ディロージャの 5 日間セミナー『個人的な天才になるための必要条件』の記録で、注釈と物語が付け加えられています。参加者は、一連の実演と演習に参加することで、その知覚フィルタが拡張し、制限的な自己信念を克服することが可能となります。

著者は、読者に対し、マインドの構造と、全パーツの内的ダンスへの統合のし方を再検討するように促します。読者は、無意識のパワーを尊重する形で、自分自身の個人的卓越性を育成するために容易に天才の技能にアクセスできること学びます。」

本書の 1987 年版は布製のハードカバーで、1994 年版はペーパーバック廉価版ですが、翻訳書は、初版の重厚感を再現するような豪華版となる予定です。

また、邦訳名は『個人的天才になるための必要条件 – ニューコード NLP の原点』が予定されています。このワークショップ シリーズ当時にはまだグリンダー氏は「ニューコード NLP」という名称を使っておらず、いわば、このワークは旧コード NLP とニューコード NLP の橋渡しとなる非常に重要な本ですが、グリンダー氏もこの日本向けの題名にすでに同意しています。


3. 「デーモン」について

(「小悪魔」と訳せるであろう) 「デーモン」とは、『個人的天才になるための必要条件』で使われている用語で、ゲシュタルト等の心理療法で使われる「(無意識の) パーツ」とほぼ同じ意味をもっています。私は、個人的には、この用語を、ユングのコンプレックスまたは「原型」、アーネスト L ロシの「SDMLB (状態依存の記憶、学習、行動)」、チャールズ タルトの「d-ASC (個別の変性意識)」と「d-SoC (個別の意識状態)」、スタニスラフ グロフの「COEX システム (凝縮経験システム)」といったさまざまな概念と等価と見なす場合もあります。

『個人的天才になるための必要条件』では、デーモンについて頻繁に議論されていますが、同書に示されているデーモンの活動範囲の絵が非常に興味深いので、下に複製してみます。


グリンダー氏によると、

「私たちは、この上の形態を基本比喩として使うとしましょう。この場合、この形態では、表面は、私たち一人一人と世界の間のインターフェイスに対応します。この形態は、柔軟で、ダイナミックな表面をもった特別の種類の球体である必要があります。

球体は、これらの経験を取り込むまたは表出する格子とでも形容できるような、一定の内的構造を有しています。この格子の実際の構造は、生物体の遺伝学構成の興味深い結果であり、経験から作り出される種類の構造です。このモデルでは、二次的注意 [すなわち、無意識の] 回路に完全に自分自身をコミットすることは、円錐形状の射影として表出されます。この円錐形の頂上は球体の中心に触れ、そこから拡張して、表面に向かって移動し、最後に、表面上で円状の区域を描きます。

円錐形状の射影で定義される球体の表面の区域は、該当の機能用のデーモンが自由に歩きまわれる区域で、その特定のデーモン用の籠、その文脈を規定しています。そして、中心部のこの円錐形状のセクションをアンカーリングすると…私には、皆さんがこの中心をどう呼びたいか、わかりません。

マインド全般 [と呼んでもいいかもしれませんね]。私は現在指揮者として音楽に熱中しているので、そのことを交響曲として考える傾向にあります。そして、[球体の表面を指し示しながら]これらは、実際には、楽器を演奏している人々です。楽器の演奏家です。たとえば、これは、第一ヴァイオリン奏者です。次が第一オーボエ奏者です…このため、オーケストラ内にも階層の構造が存在します。各セクションには、そのセクションを代表する人が一人います。ここでも、この類比で、私が実に魅力的であると思うパーツが存在し、目的を逸していると思える他のパーツが存在します。この場合、『不協和音を鳴らす』とは、どういう意味でしょうか? それは、一つのデーモンによるへまであるかもしれません。」

つまり、この絵の球体の表面は私たちと世界とのインターフェイスであり、私個人の理解では、中心は NLP でいう「メタ ポジション (観照者)」です。「円錐形」は、その観照者が一つ一つのデーモンが自由に移動できる「事前決定された行動範囲」ということになります。

通常は、この観照者 (『個人的天才になるための必要条件』では「管理者 (コントローラ)」という用語が使われています) が複数のデーモンの活動範囲を適所適材的に事前決定することなしに、全デーモンがかってに走り回れる環境を作っているので、これが、自分の意識状態を思うがままにコントロールできない最大の理由となっていると思われます。

(ちなみに、「複数のデーモンの活動範囲を適所適材的に事前決定する」ことは、私が本メルマガの以前の号で紹介した「アンカーによって事前決定される精神状態」の図式 (以下のリンクを参照のこと) と密接に関係しています。

http://www.creativity.co.uk/creativity/jp/magazine/library/anchor.htm

『個人的天才になるための必要条件』では、このコントロールを回復するための「一次的注意」 (意識) と「二次的注意」 (無意識) との間のコーディネーション力をつけるための技能を向上させる方法論が提示されています。


4. 日本人は「第一ポジション」が弱い?

昨年 11 月から 12 月にかけて、私、石川正樹氏、アラスター プレンティス氏が英国に行き、グリンダー氏から直接ニューコード NLP のトレーニングを受けたとき、ニューコード NLP の重要要素として「知覚ポジション」の話になり、欧米人は「第二ポジションへの移行」の能力が弱い反面、日本人は「第一ポジションへの移行」の能力が弱い、という話になりました。

グリンダー氏は、日本人で非常に第一ポジション移行の強い人がいれば、その人をビデオに撮って、それを 日本人の NLP 学習者にモデリングさせればいいでしょう、とアドバイスされていました。

この文脈で、私は、現在、 日本人は「意識的な」第一ポジションへの移行能力が弱い (および、欧米人は「意識的な」第二ポジションへの移行能力が弱い) と考えています。 すなわち、日本人は普段でもかなりの時間第一ポジションを占めているように思えますが、その過程は無意識のままとどまっているように思えます。

この話題に関連して、文化人類学的な立場から、最近の私の資格コースの中で「戸籍および住民票の制度があるのは日本 (と韓国くらい) だけで、欧米にはこのような制度自体がいっさい存在しません」と指摘させていただきました。

私自身、20 年近く英国に住んでいたので、戸籍制度のない状態が普通になっていて、この指摘自体、移動の激しい「狩猟民族」でなく、一点の場所への定着型の「農耕民族」特有の戸籍制度が、「個人主義」的な第一ポジションの主張を嫌い、「集団への帰属」からいわば「没個性」的な非常に弱い第一ポジションを占める日本人のメンタリティを象徴しているのではないか、という思いから提示させていただきましたが、このような戸籍制度が存在しない社会は考えられない、と思われる日本人の方々も多いかと思われます。

作成 2023/11/14