以下の文章は、北岡泰典のメルマガ「旧編 これが本物の NLP だ!」第 17 号 (2004.6.11 刊) からの抜粋引用です。
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先月末に JMA 主催の英国 NLP 学院認定大阪第一期および東京第二期プラクティショナー コースのモジュール 1 が開講され、無事終了しました。先号でも述べましたが、大阪、東京とも、コース参加者の顔ぶれは非常に多彩で、その道で活躍されている方々が集まっていると感じました。東京のコース参加者の間でも、私のメルマガを愛読されてきた上で、さまざまな比較検討をされた上で私のコースへの参加を決定された方もいらっしゃったようで、誠に嬉しく思いました。
このような私の資格コース参加者の方々の期待にお応えするためにさらに切磋琢磨すべきだとは思いますが、今後は、この観点から何点か、徒然的に考察してみたいと思いました。
1. 最近の NLP ワーク
私自身、1980 年代後半から NLP 共同創始者、共同開発者の下で NLP を学んできていますが、創始者のお一人のジョン グリンダー氏がおっしゃっているように、NLP 創始時には偉大な「NLP のモデリング」ワークがあったが、その後は「NLP の応用」があるだけで、いわゆるクリエイティブなワークは存在していない、という厳然たる事実と、私自身の「あることを学ぶ際には、できるだけそのルーツに近い教えを習得するべし」という学習志向性のために、最近の NLP ワークには特別な関心を特に払ってきていませんでしたが、しかしながら、国内のインターネット上の NLP コミュニティで現在話題になっていると思われる NLP 本の翻訳書 (たとえば、ドナルド ロフランドの「こころのウィルス」やリチャード ボルスタッドの「RESOLVE: 自分自身を変える最新心理テクニック」等) を読んでみましたが、けっこう興味深いものでした。前者の本は、「アンカーリング」を使った自分の行動/思考パターンの矯正または「アンカー崩し」の参考書として価値があると思いましたし、後者は、いろいろな研究の統計上の数字が有益ですし、また、全般的に、すでにファシリテータ、カウンセラー、セラピストとして専門的ワークをしている方々に特に参考になるかと思われました。
私自身、いまだに翻訳されていない古いクラシックの重要書が一定数あり、これらを翻訳しないでいることは「倫理的に」許されない、という立場を取っていて、「他の本に書かれていることと比べて、特に目新しいものはないと思われる」といった評価も受けている私の翻訳書の『Magic of NLP』 (ところで、歴史的に言って、他の NLP 本は、実質的にすべて『Magic』を基にして書かれてきているので、この本に「目新しいものはない」という事実は、まさに当然のことと言えば当然のことです!) の後にも、1、2 冊かなり古い NLP クラシック書の翻訳出版を考えているところですが、同時に新しい近年の NLP ワークも再研究してみるつもりでいます。
ちなみに、現在翻訳されている NLP 書の数は、海外で英語で発行されている NLP 本のごく一部です。私は、これまで、NLP 翻訳書としては、市場を考えて、簡単で絵入りでなければいけない、と助言を受けてきていましたが (この助言が『Magic』の翻訳出版の理由の一部になっていますが)、上述した、どちらかと言うと比較的「難解」な NLP 翻訳書が国内の NLP コミュニティで話題になっているということは、それなりに勇気付けられることです。ただやはり、おそらく、実際に上述の 2 冊の本を購入される方の絶対数は営業的観点から言ってもそれほど多くはないでしょうし、ほとんどの最近の「難解」な NLP 書は、今後とも翻訳されずにとどまる可能性が非常に高いと思われます。
2. NLP と催眠
NLP は、歴史的に、一般的に世界最高の催眠療法医と見なされているミルトン H エリクソン (しかしながら、過去に、「私はプロのヒプノセラピストだ」と自称したアイルランド人女性に会ったことがありますが、彼女はエリクソンの名前を知らなかったので、仰天したこともありましたが) をモデリングして生まれたので、NLP を学ばれる方々にも催眠またはヒプノセラピーに興味がある方がいらっしゃるようです (すでにヒプノセラピーを学ばれている方々もいます)。
私自身、1980 年代後半に英国ロンドン市で「催眠と上級心理療法スクール (SHAP)」に 1 年間通い、卒業していますので、催眠状態の誘導テクニックには精通しているつもりです (最も短時間で相手をトランスに誘導するテクニック、といったものも学びました)。SHAP では、振り子の凝視、メトロノームの使用といった「メスメール的」と言っても許されると思われる「古典的」なテクニックはいっさい使わず、すべてエリクソン式催眠誘導テクニックを教えていました。校長は、お年よりの方でしたが、マインド的には革新的で、当時としてはまだ目新しい NLP テクニックを積極的に取り入れようとしていました。
確かに、NLP では、舞台催眠術師が誘導するような「夢遊病的」催眠状態は使われませんが、「新コード NLP」の骨頂である一連の個人編集テクニックは、すべて、軽い日常的な「トランス」状態を使っていますし、私個人の経験からは、ごく軽いトランスを使った NLP ワークからもたらされる「療法的」効果が、夢遊病者的な深い催眠状態を使った催眠ワークと同程度または、場合によってはそれ以上のものであることが判明する場合もあります。
この事実によって、私は、必ずしも、伝統的な (振り子、メトロノーム等を使わないエリクソン式) 催眠技法やヒプノセラピーを否定するものではありませんが、東京第二期プラクティショナー コースの参加者から「セラピー無用論」の意見が出されたことも事実です。
他にも、東京のコースでは、「伝統的な心理学は (無意識の存在を想定し、その) 無意識内で表現されようとしているエネルギーがあると考えるが、NLP ではその吐け口の処理はどうなっているのですか」という意味の質問もありました。この点については、無意識で眠っているエネルギーが発散の機会を常に狙っているという「モデル」自体、18 世紀にワットが発明した蒸気機関車のコンセプトに基づいているように思われる一方で、21 世紀のコンピュータのモデルによれば、無意識は (もし存在すると想定され続けるのであれば) ハードディスク全体のようなものであり、モニタ (すなわち「意識」) 上でキーボードとマウスを使って目的のファイル (すなわち、たとえば「過去の記憶」) をハードディスク (「無意識」) から検索アクセスしてモニタで開けるまでは、エネルギーの発散ということ自体が意味をなさなくなります。
ちなみに、同じく東京のコースでは、「NLP の諸前提」の一つとして、「エネルギーは、注目が払われるところに流れる」という表現の意味がかなり長時間議論検討の対象となりましたが、まさしく、たとえ仮に上記の (ニュートン力学的な) 18 世紀のモデルに一理あるとしても、そのエネルギーは、コンピュータのモニタ上で、自分の該当ファイルの開け方次第で (このファイルの開け方は通常は無意識的、自動的に行われますが、NLP 個人編集テクニック等で、意識的に自分の思うがままに開けられるようになります)、どのような方向にどのような量でも「注目の払われるところに流れる」ことも可能である、と言えると思います。
「NLP vs 催眠」については、私自身、エリクソン式催眠に関連した最新の欧米の研究を再研究することで、NLP が主に使う軽い日常的なトランスまたは変性意識状態をいかにさらに有効に活用できるかの私自身の研究を再継続してみたいと思います。
なお、私が開講する将来の NLP マスター プラクティショナー コースでは、少なくとも 1 モジュール全体を、NLP 創始の重要な背景となっている伝統的エリクソン式催眠誘導テクニックの習得に当てたいと思っています。
3. 「汝自身を知れ」
今回のプラクティショナー コースの第一モジュールでは、「NLP の背景と基本的モデル」をテーマに講習内容が構成されましたが、NLP の ABC 的基本的モデルとして、「表出体系」、「4 タップル」、「眼球動作パターン」、「アンカーリング」等が紹介され、それぞれ関連演習が実際に実践されました。
これらの各コンセプトは、「自分が現実として認知するものは、実は現実そのものではなく、現実についてのモデルにすぎない」 (NLP 諸前提で言う「地図は土地そのものではない (The map is not the territory)」) という文脈で紹介されました。すなわち、対人コミュニケーションにおいて、自分が起こっていると信じていることと実際に相手の対話者の中で起こっていることの間には通常乖離があることが実証的に示された後で、自分の「内的地図」の構成要素の単位として「VAK 表出体系」と「4 タップル」のコンセプトが紹介され、さらに、相手の人間が該当の時間に VAK 表出体系のどの体系にアクセスしているかを外から観察するための人間の普遍的法則として「眼球動作パターン」が実証提示されました。この 3 つのコンセプトのうち、「4 タップル」は特に興味深いので、本メルマガ 10 号で質疑応答のあった FAQ 32 を以下に完全引用してみます。
「Q32: 『4 タップル』とは何ですか?
A32: NLP 用語の『4 タップル (4T)』は、ある個人が特定の瞬間にもっている内的経験を表出 (モデル化) するもので、『4T = VAKO』の方程式が使われます。 (なお、『タップル (Tuple)』とは『~個の元素からなる集合』という意味です。) この式は、人間は、どの特定の瞬間においても、視覚 (V)、聴覚 (A)、触覚 (すなわち、フィーリング) (K)、嗅覚 (O) から成り立っている一式の知覚経験をもっていることを意味します (簡略化のために O には味覚 (G) が含まれています)。なお、NLP 用語では、これらの感覚経路は特別に『表出体系』と呼ばれています。人間は特定の瞬間において必ずしも VAKO のすべての要素について意識的であるとはかぎらないことを指摘しておく価値はあります。
4T は、1) 外部生成の要素、2) 内部生成の要素のいずれかから構成されることが可能であることが指摘できます。(1 と 2 の組み合わせから構成される場合もありますが、このケースはここでは議論されません。) 前者の場合、4T は外部世界から入ってくる (入力) データだけから成り立っているので、『e』 (外部を 示す『External』の略字) を付けて『4Te』として表されます。後者の場合は、内部の記憶から来るデータだけから成り立っているので、『i』 (内部を示す『Internal』の略字) を付けて、『4Ti』 として表されます。
4T の概念のおかげで、『考え』、『思考』といった捉えどころのない概念を『内的行動』と定義することができるようになるので、『行動/思考』の区別のかわりに『外的行動/内的行動』の非常に明快な区別を用いることができるようになることは特記に値します。
この 4 タップルとは、私たちが現実を再構築するための窓、要素です。つまり、ある任意の時点でのある個人の内的体験は常に、この VAKO の構成要素の組み合わせから成り立っているととらえることが可能です。
私は、だいぶ以前瞑想の修行をしていたとき、 (西洋人の) 瞑想の先生に『私は、意識が自分の中に向かう場合と外に向かう場合があることはわかりますが、このインターフェイスの区別はどのようになっているのですか?』と聞いたことがあります。この先生は、『それは自分自身で経験して確認するように』と答えました。今振り返って考えると、この先生は弟子にそのインターフェイスを論理的に口で説明することはできなかったのだと思いますが、上記の『4Te』と『4Ti』の区別により、このインターフェイスが見事に口で論理的に説明できるようになっていることが判明します。このことは、今まで伝統的にはすべて修行者の経験則だけに頼り、その師匠も口で説明できなかったような東洋的な方法論を、西洋心理学の NLP は左脳思考的に、論理的に説明できるようにした数々の例の一つになっています。」
これら 3 つの NLP 基本的モデルが紹介された後に、おそらく通常はマスター プラクティショナー コースで紹介されるべきであろう「購入ストラテジー」テクニックが紹介されました。
これは、ある人がある買い物をして購入品目を決定する際に、たとえば「私が車を買いにショップに入ったとき、まず車の色で車種を比較します (= V)。その後、ほしい車に乗り込んで、乗り心地を調べます (= K)。その後、『この車にする!』と自分で叫んで買う車を最終的に決定します(= A)」 といった具合に、その人は、表出体系的には、V -> K -> A の順序の「購入のための無意識的な自動プログラム」をもっていることを意味しています。コースでは、この人は、車だけでなく他のどの品目を購入する場合にもこの V -> K -> A のストラテジーを使い、これ以外のストラテジー (自動プログラム) が起動した場合には、購入を決定すること自体が不可能になることが演習を交えて実証されました。
この 4T に基づいたストラテジーのコンセプトは、多くの NLP 書でも紹介、考察されていると思いますが、私の見るところ、これこそが、「天才と凡才」、「ピーク パフォーマンスと恐怖症」、「自分が求める行動/思考パターンと自分が欲しない行動/思考パターン」を分け隔てるまさにその要素です。この意味でのストラテジーは、材料がまったく同じなのに天才の料理人と普通の料理人の違いを生み出す料理の手順またはレシピのようである、と形容すると理解しやすいかもしれません。
そして、(ハッピーになるための、怒るための、憂鬱になるための、赤面症になるための、神経症または恐怖症に陥るための、ピーク パフォーマンスを発揮するための、瞑想に入るための、といったようにありとあらゆる行動/思考パターンを提示するための) 無意識的ストラテジーは、ほぼ常に「アンカー」と呼ばれる、一度は意識的に学習した後で、その後何度も繰り返された後無意識的になって、コンピュータでいうショートカット アイコンのように機能する、非常に強力なメカニズムのために、完全に自動的に決定されているので、通常は、この「蟻地獄」 (該当の行動/思考パターンが自分の望むものでない場合ですが) の穴からはいっさい抜け出ることはできないのですが、何と、NLP は、自分の無意識的ストラテジーを意識化し、かつ自分が望んでいる行動/思考パターンを継続的に実行、維持させることで、私が見るところ人間の歴史上初めて、アリストテレス以来 2500 年間抜け出せなかった蟻地獄からの脱出を可能にさせました。
新しいアンカーを作るか既存のアンカーを崩すことにより、自分の無意識的、自動的ストラテジーを変更するということは、もちろん、自分の人格またはアイデンティティの変革と拡張にもつながりえます。というのも、人格またはアイデンティティといった不変的に思えるパターンも、実は生まれてから学習して身に付けた一定の行動/思考パターンの集りでしかなく、ただ、何度も何度も変更なしに繰り返されるので不変のように見えるだけにすぎないからです。
つまり、私にとってみれば、アンカーとそれに基づいたストラテジーの全容を知れば、「いったい私とは誰か」がわかり、かのデルフィーの神託の「汝自身を知れ」の答を知ることになるのです。
この結論に対して存在論的な「恐れ」を感じる人々もいるでしょうが、私は先月のプラクティショナー コースのモジュール 1 では、次のように示唆しました。
「このようなコースでトレーナーが皆さんに教えられることは、青空を覆い尽くしている白い雲を取り除くための (否定的な) 方法論です。トレーナーは、その無垢な青空自体を直接的に皆さんにもたらすことは絶対不可能で、青空を見る行為自体は、皆さんの一人一人に任されています。(ここでいう「青空」とは、人によっては「ピーク パフォーマンス」でも、「深い愛情」でも、「心の平静さ」でも、「深い瞑想」でも、「悟り」でもありえます。) そして、白い雲を完全除去するための最高の方法論は、まず間違いなく NLP です。」
作成 2023/10/14