以下の文章は、北岡泰典のメルマガ「旧編 これが本物の NLP だ!」第 10 号 (2004.1.23 刊) からの抜粋引用です。
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第 8 号のメルマガで、『NLP FAQ (頻繁に尋ねられる質問)、その 1』にお答えしましたが、今号はその続編です。
Q28: 表出体系とは何ですか?
A28: 「表出体系」とは、NLP 基本的モデルである 「Representational System」 (場合によっては「Rep System」とも略されます。発音は「レップ システム」です) の訳語ですが、これは視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感の各知覚体系に対応するものです。
国内では、この NLP 用語は従来「代表体系」または「代表システム」と訳されてきているようですが、私は、個人的にはこれは誤訳だと考えています。なぜならば、「represent」には大きな意味として「代表する」と「表す」の二つがあり、このうち、「代表する (= 代わって表す)」とは、日本語では、国会議員が選挙区の有権者を「代表」して国政を司る、という意味で使われますが、五感の経験の各カテゴリ (あるいはモダリティまたは様式) を示す「Rep System」という語自体は、その各カテゴリ内の経験内容はもとより、何も「代表」してはいないからです。(たとえば、「味覚体系」という語自体は、ある個人の内的な味覚体験の要素すべてを「含有」しているとは言えても、選挙区有権者を代表している国家議員の場合のように、それらの要素すべてを「代表」していると言うことはできません。このことは、選挙区有権者もそれを代表している国会議員も同じ人間である一方で、味覚体験の要素すべてとそれを含有している味覚体系は同じ論理タイプにはないということを確認することで、明らかになります。) この「Rep System」は、むしろ、単純に、五感知覚体系の各内的体験を表しているという意味で、「表現体系」、「描出体系」、あるいは「表象体系」であるというふうに理解するべきだと考えます。
(最近、私は、ある NLP の原書本で「a visual representer」という言葉に出会いましたが、この言葉を仮に「視覚的表現者、描出者、表象者」と訳することができたとしても、「視覚的代表者」とは訳せないことからも、上記の論理は擁護されています。)
しかし、残念ながら、「Rep System」のこれらの 3 つの訳はすべて日本語にあまり馴染まないように聞こえるので (そのためにこそ、「代表体系」という訳語がこれまで定着してきているのかもしれません)、私自身は「表出体系」という訳を使ってきています。「表出」はあまり見かけない日本語であるように思われ、また、各英和辞書には普通「Representation」の訳として「表出」は挙げられていませんが、学研の「スーパーアンカー英和辞典」 (私自身、旧版の「アンカー」を以前ぼろぼろになるまで使ったことがあります) にはこの訳語が見つかります。一方で、広辞苑では、「表出」は、「(1) 精神活動の動きが外部に表われること。表情・呼吸運動・筋肉運動・腺分泌の変化など。 (2) 表現に同じ。『感情の―』」と定義されています。確かに、厳密に言えば、広辞苑のこの定義の「表情・呼吸運動・筋肉運動・腺分泌の変化など」の部分は「Rep System」の本来の意味とはずれるかもしれませんが、しかし少し意味を広げて、「表出体系は、NLP の『眼球動作パターン (Eye Scanning Patterns)』、『優先述語表現 (VAK Predicate Preference)』等によって外部に表われる (= 表出される) 各五感ごとの精神活動の動きからなる各体系である」と定義することも可能であると考えられるで、今後私の NLP 関連の著作では、「Rep System」の訳語として「表出体系」を使っていきたいと思っています。
いずれにしても、もともと、NLP 業界で「Rep System」とは言わず、ごく日常語の「Sensory System (知覚体系)」を使ってもよかったのでしょうが、一つの体系が独立した体系として自己主張し、自立していくためには、一定数の、このような「業界用語」を創出せざるをえなかったのは無理からぬことだと思います。
Q29: NLP の一番重要なテクニックは何ですか?
A29: NLP の一番重要なテクニック/モデルは「アンカーリング」だと思います。この点に関しては、本メルマガの第 10 号を参照してください。
Q30: どうして NLP の一番重要なテクニックは「ラポール」ではないのですか?
A30: 確かに、コミュニケーションで一番重要なことは、対人コミュニケーション技能の向上、すなわちラポール技能の向上、ということになるのかもしれませんが、その一方で、NLP では、究極的な意味では、私たちが真の意味でコントロールできるのは自分自身の内的状態だけであるとされています。この観点から言えば、対人コミュニケーションの向上、コントロールは、「アンカーリング」等を使って自分自身の内的状態をコントロールすることができた後にだけ可能であるということになります。
Q31 : なぜ 1 回で確立されると言われているアンカーリングの効果が時間とともに薄れてしまうことがあるのですか?
A31: この質問は、私が現在開講している NLP プラクティショナー コースの参加者から出されました。私とコース参加者全員のやり取りの中から以下のような可能性としての原因が対話的に特定されました。
1. 最初にアンカーリングを確立する際に雑音が入る:
これは、当初アンカーリングを確立する際に、いわゆる「雑念」が入っていれば、純粋な内的体験をアンカーリングすることができない、という意味です。通常、アンカーリングを確立する際は、その対象となる過去の体験と充全にアソシエートしながら (つまり、自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の肌で感じながら) 行う必要があります。
2. アンカーリングを確立した文脈以外でそのアンカーリングを起動しずらい:
通常、たとえば、NLP ワークショップが開講されている部屋の中という」文脈で特定のアンカーリングが確立されますが、本人が外の「現実」の他の文脈でそのアンカーリングを起動することが難しい、または起動すること自体を忘れてしまっている場合があるかもしれません。これを克服するには、いろいろな文脈でもアンカーリングを起動できるように意識的に「自己訓練」する必要があると言えます。
3. アンカーリングを確立するタイミングが不適切である:
当初アンカーリングをかける際、当人の中で起こっている内的体験が強くなり始めたときにその体験をアンカーと関連付け、その体験がピークを超えた直後くらいまでそのアンカーを維持する必要があります。このタイミングは各自、ある程度までは経験則で学ぶ必要があるかもしれません。
Q32: 「4 タップル」とは何ですか?
A32: NLP 用語の「4 タップル (4T)」は、ある個人が特定の瞬間にもっている内的経験を表出 (モデル化) するもので、「4T = VAKO」の方程式が使われます。(なお、「タップル (Tuple)」とは「~個の元素からなる集合」という意味です。) この式は、人間は、どの特定の瞬間においても、視覚 (V)、聴覚 (A)、触覚 (すなわち、フィーリング) (K)、嗅覚 (O) から成り立っている一式の知覚経験をもっていることを意味します (簡略化のために O には味覚 (G) が含まれています)。なお、NLP 用語では、これらの感覚経路は特別に「表出体系」と呼ばれています。人間は特定の瞬間において必ずしも VAKO のすべての要素について意識的であるとはかぎらないことを指摘しておく価値はあります。
4T は、1) 外部生成の要素、2) 内部生成の要素のいずれかから構成されることが可能であることが指摘できます。(1 と 2 の組み合わせから構成される場合もありますが、このケースはここでは議論されません。) 前者の場合、4T は外部世界から入ってくる (入力) データだけから成り立っているので、「e」 (外部を示す「External」の略字) を付けて「4Te」 として表されます。後者の場合は、内部の記憶から来くるデータだけから成り立っているので、「i」 (内部を示す「Internal」の略字) を付けて、「4Ti」 として表されます。
4T の概念のおかげで、「考え」、「思考」といった捉えどころのない概念を「内的行動」と定義することができるようになるので、「行動/思考」の区別のかわりに「外的行動/内的行動」の非常に明快な区別を用いることができるようなることは特記に値します。
この 4 タップルとは、私たちが現実を再構築するための窓、要素です。つまり、ある任意の時点でのある個人の内的体験は常に、この VAKO の構成要素の組み合わせから成り立っているととらえることが可能です。
私は、だいぶ以前瞑想の修行をしていたとき、 (西洋人の) 瞑想の先生に「私は、意識が自分の中に向かう場合と外に向かう場合があることはわかりますが、このインターフェイスの区別はどのようになっているのですか?」と聞いたことがあります。この先生は、「それは自分自身で経験して確認するように」と答えました。今振り返って考えると、この先生は弟子にそのインターフェイスを論理的に口で説明することはできなかったのだと思いますが、上記の「4Te」と「4Ti」の区別により、このインターフェイスが見事に口で論理的に説明できるようになっていることが判明します。このことは、今まで伝統的にはすべて修行者の経験則だけに頼り、その師匠も口で説明できなかったような東洋的な方法論を、西洋心理学の NLP は左脳思考的に、論理的に説明できるようにした数々の例の一つになっています。
Q33: フロイト以降の「セラピー心理学」と NLP と決定的違いを教えてください。
A33: この質問に関しては、このメルマガ全体に渡って、明示的または含蓄的に何度かフロイト以降の心理療法全学派と NLP の間の差異が指摘されてきていると思いますが、改めて以下に 3 点の主要な相違を要約します。
1. 「コンテント志向」 vs 「コンテントフリー」
確かに、「潜在意識」を発見したことに関してのフロイトの偉大な貢献は正当に評価される必要がありますが、同時に、「もはや存在しない過去」にトラウマ (精神的外傷) の原因を見つけ出そうとする彼の方法論の限界も明らかになっています。フロイト以降、西洋では、ゲシュタルト、ヒューマニスティック サイコロジー、交流分析 (TA)、エンカウンター、プライマル、リバーシング等の広範な心理療法の学派が精神分析に取って代わるかまたは超越するものとして創始されましたが、これらの学派は、結局のところは、「コンテント志向」のセラピーで、クライアントに過去のトラウマを認知的に (ゲシュタルト、ヒューマニスティック サイコロジー、交流分析等の場合)、または情緒的および心理的に (エンカウンター、プライマル、リバーシング等の場合) 再現なく何度も再体験させようするという意味において、精神分析に似た限界性をもっていることが判明しました。
言い換えれば、これらすべての現代の心理療法の学派は、(もはや存在しない) 過去のトラウマの原因がいったん見い出されて、再体験さえされれば、これらのトラウマは永久に治癒されるだろうと素朴に信じ、コンテント レベルを超えることができませんでした。
その一方で、(もちろん、ミルトン H エリクソンとパロ アルト グループのさらに早い時期の貢献を忘れることはできませんが) 心理学の歴史上初めてこのコンテント レベルを超え、人間行動のプロセス (または文脈) レベルに登り、クライアントの望まない行動を支配しているパターンと規則を扱って、彼らがさらに幸福に感じ、自身にさらに満足できるような変革をもたらし始めたのは NLP でした。ミルトン H エリクソン、パロ アルト グループ (すなわち「ブリーフ セラピー」派)、NLP の心理学はすべて、従来のセラピーのコンテント志向と対比した「コンテントフリー (内容とは無関係)」の方法論を使っています。
ちなみに、NLP は伝統的な心理療法の学派とはまったく異なったレベルにあり、それらすべてを超えていることは、NLP の誕生後に新たに確立された重要な、影響力をもつ心理療法の主要な学派を見つけだすことができないという単純な事実から明らかになります。同じ限界をもっている新しい心理療法の学派が NLP がコンテント レベルを超越した後にも創始される必要性と理由がもはやいっさいなくなったわけです。(この意味では、欧米では、精神分析だけではなく心理療法も現在、「死語」になりつつあります。)
2. 「Why」 vs 「How」
これは、上記の 1. で指摘した相違とも関連していますが、NLP 以前の「コンテント志向」のセラピーは、常に「今の問題がなぜ (Why) 起こっているか」に焦点を合わせ、今起こっている問題の原因を遠い過去のトラウマ (精神的外傷) に関連した経験の (場合によっては無意識に追いやられた) 記憶に見つけ出そうとする傾向が非常に顕著です。一方で、NLP は「今の問題がどのように (How) 現時点で起こっているか」にだけ焦点を合わせて、もはや存在しない過去の詳細に原因を求めるといった、「最初から負ける運命にある、際限のないゲーム」をプレーしようとはいっさいしません。
3. 「セラピスト依存」 vs 「自分自身のセラピスト」
本メルマガの第 4 号で、私は以下のように書きました。
「[アンソニー] ロビンスはその『アンリミティッ ド パワー』 (邦訳タイトルは『あなたはいまの自分と握手できるか』のようです) で、既存の心理療法の学派は、内部に蒸気圧力が溜まってきているやかん (クライアント) の蓋を開こうとするものだと喩えています。この場合、圧力が解放されたときクライアントは気分よく感じますが、蓋が一人でに再度閉まってしまい圧力が再び溜まる度に、繰り返して 2 週間毎に同じセラピストのところに戻っていく必要があります。他方、NLP で可能なことは、ジュークボックスのメカニズムに類似しています。仮にボタン A を押したときに聞きたい音楽が流れ、ボタン B を押したときに聞きたくない音楽が流れるなら、ボタン A を押すたびに聞きたい音楽が流れ始めるように、内部配線を変えることができます。または、聞きたくない音楽が乗っているディスクを取り払って、聞きたい音楽の新ディスクを乗せ換えることが可能です。NLP が達成できることは、まさにこのような私たち人間の脳のプログラミングの「配線変え」というわけです。」
すなわち、NLP 以前のセラピーの場合は、クライアントは、セラピストによって一定の解放感が得られた後も、同じような問題が形態を変えながらもずっと残り続けるので、セラピストのもとに何度も戻っていかねばならず、「セラピスト依存症」は克服できませんが、NLP の場合は、ファシリテータ (ここでは「クライアントの中に新しい変化を引き起こさせる人」という意味です) はクライアントが上記の脳の配線変えを自分自身達成できるような NLP テクニック演習を与えるので、クライアントは (それらの演習をある程度自分で反復練習する必要はありますが) 他のセラピストには依存しない、自立した「自分自身のセラピスト」になることを支援します。
Q34: 最近知られてきている「ブリーフ セラピー」は NLP と関係がありますか?
A34: 「ブリーフ セラピー」 (「短時間療法」とでも訳すべきかと思います) と NLP には密接な関係があります。
私の知るかぎり、「ブリーフ セラピー」は、主にパロ アルト グループのジョン ウィークランド等が公式に使用し始めた用語だと思いますが、ウィークランド、ポール ワツラヴィック、ジェイ ヘイリ-等を始めとするパロ アルト グループ全体の典型的な方法論を形容するための呼称です。(なお、パロ アルト グループとは、1950 ~ 60 年代にグレゴリー ベイツンによって指導されていた、カリフォルニア州パロ アルトにあった「精神研究所」の研究者グループのことを指します。) もちろん、催眠療法の最高権威とされているミルトン H エリクソンの手法もブリーフ セラピーと呼ぶことができることを忘れてはいけません。
歴史的には、NLP は、エリクソンを父としていて、またもう一人の父 (ベイツン) のもとでパロ アルト グループと兄弟関係にあるので、さらに方法論的には、エリクソン、パロ アルト グループ、NLP はすべて「コンテント フリー」の傾向が顕著なので、ブリーフ セラピーと NLP は密接に関係しています。
ちなみに、国内でセラピーに関わっているある方が私に「最近は NLP はもう食傷ぎみなので、今後これからはブリーフ セラピーがポピュラーになる」という意味のことをおっしゃったことがありましたが、歴史的には、欧米では、ブリーフ セラピーの方がずっと早い時期に出現していて、NLP はずっと後に生まれたので、この方のご意見は興味深いと思いました。私は、個人的には、「NLP の全貌」は国内の方々にはまだ到底伝わっていないと考えています。そのためにこそ、私は昨年から国内で NLP 活動を本格的に開始し、またこのような挑発的なタイトルのメルマガを執筆してきているわけです。
Q35: 変性意識とは何ですか?
A35: 「変性意識状態」とは、「Altered States of Consciousness」の訳語ですが、私は、この用語には、非常に広範なコンセプトの意味合いが含まれていると思います。たとえば、催眠、トランス、夢、明晰夢、入眠時意識、白昼夢、幻覚、幻聴、幻想、恍惚感、酩酊状態、リラクゼーション、アンカーリングで呼び出される意識状態、ゾーン、SDMLB、4Ti 等はすべて、何らかの意味での変性状態と定義することができる、と私は考えています。
トランスパーソナル心理学者のチャールズ タートは、ある人の通常意識は別の人の変性意識であるかもしれず、その差は相対的である、と言っていますが、この指摘は非常に興味深く、深く考察する必要があると思います。
Q36: 「催眠」を定義してください。
A36: 「催眠」状態は、狭義の意味では、舞台催眠術が被験者にかける非常に深い「夢遊病者」的な、ゾンビー (無言無意志無反応の人間) のような状態と定義できますが、広義の意味では、上記の Q35 に列挙されているコンセプトすべてを意味しうる、と私は考えています。なお、私は、おそらく最も簡単な催眠の定義として「『今、ここ』ではないものはすべて催眠である」という公式を使ってきています。
Q37: 眼球動作パターンは世界中で普遍的ですか?
A37: NLP 共同創始者のリチャード バンドラーとジョン グリンダーは、ある個人の眼球動作パターン (Eye Scanning Patterns) によって、その人がその時点でどのタイプの表出体系 (知覚経路) にアクセスしているかが判定できることを発見しました。
すなわち、視覚情報にアクセスする際は、私たちの眼球は上方に動きます。さらに、左上方に眼球が動くと、記憶イメージにアクセスしていることを意味します。右上方に眼球が動くと、今まで見たことのないイメージを構築していることを意味します。聴覚情報にアクセスする際は、眼球は水平方向に動きます。左水平方向に眼球が動くと、記憶された聴覚音にアクセスしていることを意味します。右水平方向に眼球が動くと、聞いたことのない音を構築していることを意味します。
眼球が、左下方に動く場合、個人は「聴覚デジタル」情報、すなわち言葉にアクセスしていることがわかりました。この場合は、心的に自分自身に話しかけています。最後に、触覚情報にアクセスするには、眼球は、右下方に動く必要があります。
このパターンは、ごくまれに左利きの場合に水平左右方向に反転することがありますが、日本人の場合もこの標準パターンに当てはまります。グリンダーによれば、スペインのバスク人だけは、水平方向のパターンがこの普遍的法則に合致しないということです。この理由は、バスク人の子供たちは両手利きの形で育てられる事実にあるようです。(私自身、これまで過去のワークショップ等で「スペインのカタロニア人だけが例外」と言ってきていましたが、これは私の記憶違いでした。)
Q38: 「ダブルバインド」とは何のことですか?
A38: 「ダブルバインド」は、「二重拘束」の意味ですが、20 世紀で最も重要な思想家の一人であり、また「NLP の父」でもあるグレゴリー ベイツンが提案したコンセプトとして広く知られています。二重拘束は、単一の論理レベル (たとえば、特定の問題の内容または詳細のレベル) にとどまることを強いられ、逃げ場のない悪循環または「終わりなきゲーム」に陥っている状態として定義されます。
二重拘束の単純な例は、母親がその子供に「自発的でありなさい」と言うときに見い出されます。この命令に従うためには、その子供は命令を基に「自発的」になる必要があるので、自発的ではなくなります。この意味で、その子供は 、自発的であろうとしてもしなくても、いずれの場合も、母親の意志を満たすことが決してできない逃げ場のない状態に陥っています。同様に、母親が、あまりにも依存している子供に「あまりおとなしくし過ぎないように」と言うときも、子供はその命令に従うために母親に背くことが要求されているという意味で、その子供には二重拘束が課せられています (ポール ワツラヴィックによる「人間コミュニケーションの語用論」 (1967 年)、その他の著を参照してください)。
ベイツンの指導下のメンタル リサーチ インスティチュート (精神研究所) の研究者たち (すなわち、パロ アルト グループ) は、このような二重拘束に陥った子供たち ( そのような子供は通常、「もしそうしたら、怒られるだろう。もしそうしなかったなら、やっぱり怒られるだろう」と感じます) は、その二重拘束からの逃避手段として、たとえば外界とのすべてのコミュニケーションを閉ざす等の統合失調症の行動を提示し始めると主張しながら、統合失調症の主な原因を究明しました (ベイツンおよびその他著の論文、「統合失調症の理論に向かって」 (1956 年) を参照してください)。
Q39: いわゆる「悪循環」にダブルバインドが関与しているということですが、この点をさらに説明してください。
A39: 「悪循環」に陥っているときは、「あることをしたら、だめだろう。そのことをしなかったら、やはりだめだろう」という「終わりなきサークル」を再帰的に循環しているという意味で、ダブルバインド状態にいると定義できると思います。
ちなみに、グリンダーとバンドラーは、このような悪循環に陥っていて、常にパニック状態になってしまう人々を見て、その人たちは、外的環境の条件がどのようなものであれ、常に一定の「パニック」という外的及び内的行動を、いついかなるときにおいても首尾一貫して発揮できるという意味のおいて、どの球場のマウンドに立っても常にコンスタントな成績を上げられるプロの天才的な投手のケースと同じように、そのようなパニック患者は一種の「天才」ではないかと見始めました。(この発想の転換は、NLP では「リフレーミング」と呼ばれています。) その上で、グリンダーとバンドラーは、そのような患者が、それまで不適切な内的体験にアクセスするために使っていたまったく同じプロセスを使って、今度は本人の行動の選択肢がさらに広がるような、今までとは異なる、さらに適切な内的体験にアクセスすることが可能になるように支援して、パニック症状を克服することを可能にしました。すなわち、同じプロセスを使って、悪循環を「良循環」に変えることが可能になったのです。
なお、この方法は、フロイト的に過去のトラウマ的な経験に関して原因を詮索する必要がまったくないので、ごく短時間 (場合によっては数分内) で達成可能な「ブリーフ セラピー」的方法です。また、この同じプロセスを使用しても、適用のし方を違えると、まったく異なる両極端の結果が生まれる事実は、ベイツンのいう草の三段論法と標準の三段論法との違いと密接に関連しています。(草の三段論法については、本メルマガの第 3 号を参照してください。)
Q40: ダブルバインドの状態を認知的な (いわゆる「意思」) 力だけで克服することは可能ですか?
A40: これは非常におもしろい質問ですが、これが可能である事例が私に起こったことがあります。今から 12 年くらい前だと思いますが、それまで私は何度か禁煙を実行してきていましたが、またいつしか再び喫煙の習慣に戻っていました。私は、当時英国ロンドン市に住んでいましたが、深夜のテレビ番組として、喫煙派と禁煙派の両陣営に分かれた激しいグループ討論が行われているのを見ていました。そのうち、両陣営のくだらなさすぎるレベルの討論内容に本気で嫌気がさし始め、吐き気を催したほどでした。そのとき、私は、どのようにすればこれほどくだらない意見しか言わない両陣営両方を超越できるのかと真剣に熟考し始めました。しばらくして、私は、「もしこのままタバコを吸い続けたら、必然的に論理的に私は喫煙派の一員としてとどまらざるをえないが、もしタバコを吸わないでいたら、禁煙派の一員である可能性とともに、喫煙派と禁煙派の両方を超えたポジションに立つ可能性もありえる。しかし、少なくとも、タバコを吸い続けたら、この両義的なポジションは取ることは絶対不可能である」という認識論的な論理的結論に達し、タバコを吸わないことに決定しました。その後、私は 12 年間一度もタバコを口にしていません。
Q41: リフレーミングとは何か説明してください。
A41: 「リフレーミング」 (「再枠組み」) は、簡単に言うと、「完全に異なった意味をもつように、内容 (コンテント) を別の文脈 (コンテキスト) の中に置く」ことを意味する NLP 概念です。この典型的な例として、「このガラス コップの水は半分空である」を、現実の状況をまったく変えないまま、「このガラス コップの水は半分入っている」と「リフレーム」することができます。
広義の意味のリフレーミングは、私たちの日常生活のいたるところで見い出すことができます。顧客を説得しているセールスマンがこのテクニックを使っていると言えるかもしれません。政治家は、選挙民からさらに多くの票を獲得する手段としてリフレーミングが非常に得意であるように思われます。マーケティングのキーワードである「ポジショニング」は、リフレーミング以外の何ものもでもありません。実際、マーケティング活動の全目的はこの一つの語に還元できます。さらに、私たちの人間コミュニケーション全般は、本質的には、2 人のコミュニケータがまったく同じである単一の現実についてのそれぞれの「リフレーム」した解釈バージョンをお互いに受け入れさせようとしていることで成り立っているのかもしれません。
リフレーミングの原則は、「文脈と内容」と「チャンクアップとチャンクダウン」 (本メルマガの第 5 号、セクション 2 を参照してください) の観点から見ると、最もよく理解することができます。
Q42: NLP は、どのようにスポーツ選手のパフォーマスを上げられるのですか?
A42: スポーツ選手のパフォーマスを上げるための主な NLP テクニックは、スポーツ選手を変性意識の一種である「ゾーン」という状態に瞬間的に導くことのできる「アンカーリング」テクニックです。この「ゾーン」は、アーネスト L ロシが提唱している「SDMLB (State-Depending Memory, Learning and Behaviour)」 (「状態依存の記憶/学習/行動」) とほぼ同じものですが、該当のスポーツ選手が過去に獲得してきているピーク パフォーマンスに関連した記憶、学習、行動全体がある特定の状態の中に関連付けられているので、そのスポーツ選手は、その状態にさえアクセスできれば、ピーク パフォーマンスを発揮するために必要な過去の記憶、学習、行動全体に瞬時にアクセスできることになります。これらの過去の記憶、学習、行動はすべて、通常学習済みで、すでに無意識化されているので、本人は意識的にパフォーマンスについてあれこれ考える必要はありません。
また、サブモダリティ テクニックは、スポーツ選手の「イメージ トレーニング」能力向上に最適なテクニックです。
なお、最近のプロ テニス界の例を挙げると、男子テニス プレーヤーのアンドレアガシは、一度世界ランキング 100 位以下まで落ち、引退まで考えたようですが、その後、欧米でカリスマ的存在にまでなっている NLP トレーナーのアンソニー ロビンスの支援のおかげで、再び 4 大トーナメントで優勝することができるようになりました。私は、ロビンスのプロモーション ビデオを見たことがありますが、その中で、アガシは、彼のおかげで再度優勝できたと、ロビンスを強く推薦していました。
Q43: NLP は、どのようにビジュアル アーティストのパフォーマンスを上げられるのですか?
A43: 私の見るところ、ビジュアル アーティスト、映画監督、写真家、ビジュアル広告制作業者のような人々のパフォーマンス向上には、サブモダリティ テクニックが最適なテクニックだと思います。サブモダリティ テクニックの詳細については、本メルマガの第 9 号、セクション 3 を参照してください。
Q44: 変性意識の 1 形態である明晰夢 (ルシッド ドリーム) に興味があるのですが、この体験をさらに強くもつためには NLP のどのテクニックが有効ですか?
A44: この目的に関しても、NLP のサブモダリティ テクニックが最適なテクニックだと思います。サブモダリティ テクニックの詳細については、本メルマガの第 9 号、セクション 3 を参照してください。
ちなみに、最近、見たい夢をコントロールできるという装置が玩具メーカのタカラ社によって開発されたようです。商品名は「夢先案内装置: 夢見工房」で、この装置に見たい夢に関する写真を貼り付けて眠りについた後、見たい夢に関連して予め録音していた音声内容と夢見を促進する香りがレム睡眠時に刺激として、寝ている本人に情報入力されて、求める夢に本人を誘導する、という装置のようです。装置としてはまだ初歩的な感がありますが、アイデアとしては、今後、明晰夢を見るための訓練装置に開発発展していける可能性は秘めていると思います。
Q45: 周辺視野について説明してください。
A45: 通常、私たちは「中心視野」しか意識していないようですが、場合によっては「周辺視野」も意識化することもあるようです。NLP では、さまざまなテクニック演習を通じて、自然と「周辺視野」力も養われるようになります。特にNLP の「カリブレーション」では、コミュニケーション相手の無意識的な身振り、仕草、動作等をピックアップできる能力が開発され、それと同時に周辺視野力も向上するように思われます。この「中心視野」と「周辺視野」の対比は、NLP の「内容 (コンテント)」と「文脈 (コンテキスト)」の対比とも密接な関係があるように見えるのは、非常に興味深いことです。
Q46: カリブレーションとは何ですか?
A46: NLP では、「カリブレーション」は、進行中のコミュニケーションで相手の反応を読み取る方法のことです。コミュニケートのうまい人は、相手の内的反応について先入観、思い込みをもつかわりに、進行中の状況で、相手の微妙な内的反応を読み取ることができる人です。
たとえば、ある生徒が自分の「混乱」したフィーリングについて喋るたびに、眉をしかめ、肩の筋肉を緊張させ、歯を軽く噛み締めることに教師が気づいたとします。後で、教師が、同じ生徒が授業中にこれらの同じシグナルを示していることを観察した場合は、教師は、その時点で生徒が「混乱」を経験しているという証拠を得たことになり、これに対して適切に対応することができます。これらの種類の観察ができるように知覚技能を磨くことが、対人コミュニケーションにおいて極めて重要な要素になります。
NLP では、カリブレーション力を向上させるためのテクニック演習がいくつか用意されています。
Q47: 「無意識的有能性」を説明してください。
A47: NLP によれば、どのような人間の技能にも、4 段階の能力があります。これらの概念は、学習プロセスの理解に非常に役立ちます。
自動車の運転の例を使うと、これら 4 段階の能力は、1) 車の運転法がまったくわからない段階である「無意識的無能性」、2) 自分がうまく運転することができないことに気づくようになる段階である「意識的無能性」、3) うまく運転するために継続的に意識的な注意を払う必要がある段階である「意識的有能性」、4) 脇に座っている友人に話しかけながらでも問題なく運転することができる、すなわち、車の運転のプロセス全体が無意識的 (または、機械的) になる段階である「無意識的有能性」、です。
いわゆる天才とは、それぞれのプロの分野で能力の最終段階、すなわち無意識的有能性のレベルに到着した人たちであると言えます。
これらの概念は、呼吸、食事、消化、歩行、思考、会話、科学分野の研究、新しいプロ技能の獲得、さらには、悟りを開いた後の日々の活動の対処法まで、さまざまな人間の身体/心理的活動に普遍的に適用することができます。
Q48: NLP では、「天才」はどう定義されていますか?
A48: NLP、特に「無意識的有能性」の観点から言えば、天才 (普通の意味でだけではなく、母国語を話したり、自動車を運転したり、靴の紐を結んだりすることに関しての「天才」も含めて) とは、無意識的有能性の段階に到着することに成功した人々のことです (この段階は、「該当の目的のために必要な習慣的な心身上のプロセスを無意識的または自動的にすることに成功した段階です)。 このため、自分が欲することを達成することを妨げている自分自身の習慣に気づいた後、いかなる人間をも天才にならしめるような心的プロセスを採用することで、「個人的な天才」になることは可能です。(この目的のために、NLP の個人編集テクニックが極めてパワフルであることが判明します。)
仮に心臓の鼓動、呼吸、消化、歩行、会話、筆記等に関与している意識的、無意識的人間活動の範囲全体を念頭に入れるとしたら、いわゆる天才と凡才の差は、おそらく、人間活動の全領域のごく小部分 (たとえば 1% 以下) しか占めていないと言えると思われます。
Q49: NLP の言う「成功のための 3 ステップ手順」を説明してください。
A49: 「成功のための 3 ステップ手順」は、(1) 自分の「目的」 (何を達成したいか) を確定する、(2) 知覚鋭敏性を強化する、(3) 柔軟でいる、の 3 ステップから成り立っています。
たとえば、対人関係においては、まず相手の人から何を得たいか、または何をその人に伝えたいかを定義する必要があります。ここで、人間の脳は人工の熱探知追跡ミサイルとまったく同じように機能するので、まず自分のマインドで自分自身の明確な目標をもつ必要があります (マクスウェル マルツ著の「サイコサイバネティクス」を参照してください)。この目標は、知覚ベースの基準で設定される必要があります。言い換えれば、自分の目的を達成したときに自分が見て、聞いて、感じていること等で表される必要があります。
次に、相手の人とのコミュニケーションにおいて自分自身の知覚 (知覚経路) を使って、自分の目的を達成しているかどうかをチェックします。(たとえば、相手の人の顔、首、手、足の「極微筋肉動作」、呼吸の深さと位置、瞳孔の大きさ等を検出 (つまり、カリブレート) できるように自己訓練することが可能です。)
知覚鋭敏性は、「ダウンタイム」にいるときに最低か、またはおそらくゼロである一方で、「アップタイム」にいるときに最高になることに留意してください。
最後に、自分が欲するものを手に入れるまで、自分の行動を変えることができる柔軟性が必要になります。
上の手順の 3 番目のステップである柔軟性については、「最小必要多様性の法則」の概念が関連性があります。また、特定の状況でたった 1 つの選択肢しかもっていないなら、行き詰まります。2 つもっている場合は、ジレンマに陥ります。「自由」であると言えるようになるのは、3 つ以上の選択肢をもてるようになったときだけです。
仮に特定の状況で他の人より多くのことに気づいている場合、他の人よりも多くの選択肢をもち、さらに柔軟であるので、状況をコントロールできるようになるのは明白なことです。
Q50: NLP の言う「最小必要多様性の法則」を説明してください。
A50: 「最小必要多様性の法則」は、どのようなシステムも (人であろうが機械であろうが)、すべての他の条件が同じである場合、最も広範な対応範囲を有している個人 (人または機械) がそのシステムをコントロールする、と規定します。
すなわち、自分がいる状況をコントロールする傾向があるのは、その中で最も多くの選択肢をもっていて、最も柔軟な個人です。
また、この法則は、そのトレーニング コースの一つで NLP の共同創始者の一人であるジョン グリンダーが述べた次の内容と密接な関係があります。「たった 1 つの選択肢しかもっていないなら、行き詰まっている。2 つもっている場合は、ジレンマに陥る。『自由』であると言えるようになるのは、3 つ以上の選択肢をもてるようになったときだけだ。」
さらに、これは上記の FAQ 49 にある「成功のための 3 ステップ手順」とも関係があります。
Q51: 「アップタイム」と「ダウンタイム」とは何ですか?
A51: 私たちの内的経験 (NLP 用語で言う 4T) は、世界から入力されるデータ、すなわち、知覚ベースの情報、または、合成データ、すなわち、記憶に保存された要素の組み合わせ、のいずれかから成り立っていることが指摘できます。(「外部生成の要素」と「内部生成の要素」の両方をもつ 4T が存在することもありえますが、このケースはここでは議論されません。) 前者の場合は、私たちは「今ここ」の世界を経験していると言うことができる一方で、 後者の場合は、私たちは自分の頭の中で「幻覚」をもっていることは確かです。
自分の知覚経路がクリーンで、開いているとき、その人はアップタイムにいると言われます。すなわち、その瞬間におけるその人の 4T は知覚ベースのデータだけから成り立っています。特定の瞬間の 4T が内部生成の要素だけから成り立っている場合は、その人はダウンタイムにいると言われます。(前者の 4T は、「i」 (内部を示す「Internal」の略字) を付けて、「4Ti」 として表され、後者の 4T は、「e」 (外部を示す「External」の略字) を付けて「4Te」 として表されます。)
この同じ区別が瞑想家によって非常に異なった用語で論じられてきていることを指摘するのは興味深いことです。すなわち、本物の瞑想家は、異口同音に、私たちは過去からの投影 (すなわち、ダウンタイム) に対して「反応」するのではなく、「今ここ」の瞬間に「対応」する必要がある、または、現実をありがままに見るためには私たちは自分のマインド (内的な幻覚) を落とす必要がある、と示唆してきています。
Q52: NLP の言う「首尾一貫性」を説明してください。
A52: NLP では、特定のシステムの異なる各部分の間の整列または調整を意味する「首尾一貫性」という概念が使われます。どのようなシステムでも、そのすべての部分が首尾一貫しているとき、すなわち、互いに整列しているときに、最高のパフォーマンス レベルで機能できることは容易に理解できることです。
ある人の典型的な首尾一貫性の欠如の例は、その人が、左右に首を振りながら「はい、私はまったくあなたと意見が一致します」と言うとき、または、その人がほとんど聞きとれない声で「私は非常に自信があります」と言うときに観察することができます。典型的には、相手にこのような矛盾に見出す人々は、困惑を覚えるか、または (意識的、無意識に) その人の言うことを信じなくなります。
仮に効果的で、影響力をもつことを望むなら、私たちは、自分の他人とのコミュニケーションで首尾一貫している必要があります。
興味深いことに、このコミュニケーション概念の「首尾一貫性」は、精神主義的な意味ももっています。すなわち、上記に示された首尾一貫性は「同時的首尾一貫性」と定義され、この種の首尾一貫性は通常、偉大な瞑想家が見せる非常に顕著な局面の一つです。一方で、これらの瞑想家は同時に、「連続的首尾一貫性の欠如」を見せる傾向があります。すなわち、彼らは、「今ここ」の瞬間にい続けることに集中しきっているので、今日言うことが昨日言ったことと抜本的に矛盾する場合があります。他方、「今ここ」の経験をまったく見逃している「凡人」は、皮肉なことに、「連続的首尾一貫性」を維持しようとすることにあまりにも固執しすぎている場合があります。
Q53: 「学習」を NLP の観点から定義してください。
A53: NLP の観点から言えば、「学習」は、「試行錯誤を通じて意識的に確立された特定の心身上の習慣を無意識的、自動的にするプロセス」と定義することができます。 (これらの習慣は、NLP 用語で言う「TOTE」のプロセスと同一視できることに留意してください。)
学習の美点は、いったん私たちがあることを学んだら、その後は、同じ試行錯誤をもはや繰り返す必要がなくなる点にあり、この学習の局面は「コロンブスの卵」の比喩と密接な関係があります。
「精神の生態学」でグレゴリー ベイツンは、「論理タイプの理論」を使って、「(あることの) 学習の学び方」、「(あることの) 学習の学び方の学び方」といった異なるレベルの学習を論じています。
興味深いことに、低い (または粗野な) レベルでの (あることの) 学習で大きな進歩を果たすことは (非常に容易なことではないにしても) 比較的容易である一方で、高い (または微妙な) レベルで極微の進歩を果たすことは非常に難しいことであるように思われます。言い換えれば、初心者のテニス プレーヤーが印象的な進歩 (たとえば、学習全体の比率で言えば、0% から 60% までの進歩) を遂げるために必要な量と同じ量の努力とエネルギーが、その人がトップのテニス プレーヤーになる (たとえば、99% から 99.9% までの進歩) ために必要になるように思われます。学習レベルのこの相関関係は、極めて興味深い現代的な概念の「フラクタル」の観点から説明できるように思われます。
ちなみに、最も偉大なフォーミュラ ワン レーサーの一人であった故アイルトンセナは、サーキットのコーナーに入るとき常に、自分が過去に学んだドライビング プロセス (プログラミング) のうち、その特定のコーナーに最も合っているように見えるプロセスを自動的に立ち上げることができたという意味で、非常に偉大であったが、実は、すでに立ち上がった自動的プロセス (プログラミング) がなんらかの理由で充分適切に機能していないことを発見するたびに、コーナリングの真最中に、直ちにそのプロセスを意識的に停止させた上でそのコーナーにより合った他の学習済みのプロセスに切り替えることができたという意味で、さらに偉大であった、と言われたことがあります。(私が本メルマガの第 4 号で言及した CD-ROM の比喩の観点から見れば、この学習メカニズムは最も適切に理解されるでしょう。)
Q54: 学習加速法として、NLP 以外に何か考えられますか?
A54: 最近、私は「DiGiVo (デジヴォ)」という速話聴取装置を実験使用していますが、私自身、心理学的方法論を始め、特に潜在能力開発に関連したハードウェア装置等に関しては、非常に懐疑的な立場で接するのですが (ちなみに、その極度の懐疑主義に 15 年間耐え抜いてきているのが NLP ですが)、この懐疑主義にもかかわらず、「学習加速法」の観点から興味深いことが起こりましたので、この紙面を借りて報告したいと思います。この報告はあくまでも暫定的な私の意見として取っていただきたいと思っています。
デジヴォは、スマート メディアに録音されたレクチャー、論文、日常会話、英会話等を、通常の何倍速 (デジヴォでは 4 倍速まで) で聞き取り、その速話聴取能力を養うことでいわゆる「頭の回転」を速くし、同時に潜在能力を活性化するために考案された装置です。通常の技術では、再生速度を上げると、「キュルキュル」音が出て、再生内容が聞きづらくなるのですが、デジヴォでは、その機能的問題点が解決された製品として商品化されています。
理論的には、デジヴォを使うことで、脳の中にある「追唱」機能を司る「ウェルニッケ中枢」が刺激、活性化されて、この追唱能力が加速化される、とされています。私個人としては、人間があることを理解する場合、意識的であれ無意識にであれ (ほとんど常に無意識的だと考えられますが)、相手の言ったこと、英会話の内容等を自分の頭の中で追唱しないかぎり、その理解自体が起りえないことは、非常に理に適っていると思いますし、その追唱能力が高まれば、職場の会議や日常生活での他人の話がよくわかるようになったり、英会話能力が高まったり、とっさの判断が必要なときにも最も適切な判断ができるようになったりするであろうという論理的帰結も、合点がいくと思います。
そいうわけで、最近しばらく日本語のレクチャー教材を使ってデジヴォで実験していますが、私の場合、3 倍速強程度の設定での使用の結果、電車の中で、聴覚とは関係のない視覚情報入手能力が高まって、そのため出来事が起こる速度がスローダウンしたり (つまり変性意識状態になったり)、散歩中にデジヴォを聞いていて非常に深い瞑想体験をもったりすることに気づきました。おそらく、一番興味のあった変化は、私の英語の読書速度が最近かなり高まったことです。最近、ある難解な英語の本を読む必要があったのですが、ほとんど日本語を読むくらいまで自然に読め、確実に読書速度が以前より速くなっていることを発見して驚いた次第です。
上述しましたように、この私のデジヴォの意見は暫定的なものですが、今後、私の懐疑主義に耐える形でその有効性が私の中でさらに確信されれば、今後私自身の「北岡式英語学習加速 CD-ROM ソフトウェア」プロジェクト (この将来のプロジェクトは、主に、構文解析力を飛躍的に伸ばすことで読解力のみならず、会話力、作文力、聞き取り力を伸ばそうとするものです) ともこの速話聴取装置をリンクさせようと考えています。
ちなみに、学習加速の観点から NLP とデジヴォ速話聴取装置の共通点を考えてみると、非常に興味深いことが判明します。すなわち、このグローバル コミュニケーション情報が溢れる現代社会に生きていく上で、私たちは、たとえば江戸時代 (ヨーロッパで言うと中世) とは比較にならないほどの情報過多に晒されていて、昔の人の思考速度ではとうていまともに生活していくことなど不可能になっているので、精神状態を「正常」に保つためには、あえて自分の脳をいわば「情報オーバーロード」の状態に慣らす必要があることがわかります。通常、私たちはこの「脳慣らし」を、毎日数時間テレビを見ているときに (特に、「統合失調症的」といってもおそらく過言でもないほどありとあらゆる画面が連続的に映し出される TV コマーシャルを見ながら) 視覚的に行っていると言えますが、同じように、たとえば、NLP を学ぶ際も、そのコンセプト、モデル、演習等を通じて新しい数多くの行動パターンを連続的に身に付ける必要があるので、自分の脳が場合によっては「パンク」しそうに感じることもありますが、このことは、従来の (自動車や飛行機ではなく人力車の時代に確立された) 非常に遅い思考パターンから脱却して、グローバル コミュニケーション情報時代に生きていくために必要な新しい、俊敏な思考パターンを形成するための訓練を行っているのだと、見ることも可能だと思います。さらには、デジヴォの場合も、同じような現代社会で効率よく生きるための「脳慣らし」を聴覚的にすることが可能になる、と言えます。もちろん、この 3 つの各領域で新しく形成される学習パターンは、他の 2 つの領域に波及することもありえます (たとえば、上述のように、デジヴォで追唱能力を養うと視覚情報処理能力が上がった、というのが 1 例です)。
作成 2023/10/7